皮膚マクロファージのバランスと創傷治癒 ?創傷治癒促進を目指して?
日時 |
365体育app4年12月23日(金)10時00分~10時20分 |
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場所 |
和歌山県立医科大学 特別会議室(管理棟2階) |
発表者 |
法医学講座 准教授 石田裕子 |
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ポイント
- 皮膚創傷治癒過程は受傷直後から始まり、炎症期、増殖期、再構築期の3つの過程が互いにオーバーラップしながら進行する一連のプロセスである。
- 主に炎症期では、創傷部にマクロファージが動員され、創傷部の清浄化や感染防御に働く。また、創傷部位が修復に向かう手助けもする。
- マクロファージはその役割によってM1型とM2型に大別される(図1)。一般的に、M1マクロファージは病原体や寄生虫感染防御に働く一方、M2マクロファージは組織修復などにかかわるといわれている。
- マウスおよびヒトの創傷治癒過程におけるM1およびM2マクロファージの動態を経時的に解析し、そのバランスを世界で初めて明らかにした。
1.背景
皮膚は外敵に対する防御の最前線であり、皮膚に創傷を負った場合にこれを速やかに治癒せしめることは極めて大切である。創傷治癒の3つの過程(炎症期、増殖期、再構築期)はもちろんどの段階も重要であるが、創が治癒するかどうかにあたって最も肝要と思われるのは、炎症期から増殖期にかけてどれだけスムーズに肉芽が増殖し、創閉鎖が進んでいくかであろう。自然に創の閉鎖が進むのであればそれに越したことはないが、創の感染、栄養状態や全身状態の悪化といった様々な要素によりしばしば創傷治癒が止まってしまう。創傷治癒中の不十分に制御された応答では、マクロファージが慢性創傷(褥瘡や糖尿病性足病変など)や肥厚性瘢痕、ケロイドを引き起こす場合もある。そのような場合に創を治癒の方向に持っていくための重要な概念としてマクロファージバランスが提唱されているが、その詳細は明らかになっていない。
2.研究成果
今回の研究では、マウス創傷モデルおよびヒト創傷サンプルを用いて、皮膚創傷治癒過程におけるM1およびM2マクロファージの動態を経時的に解析した。マウス創傷モデルの創傷部位における種々の遺伝子発現を解析したところ、M1マクロファージのマーカーは治癒過程早期に発現が亢進しており、一方、M2マクロファージのマーカーは治癒過程後期に発現が亢進していた。さらに受傷後経過時間が判明しているヒト創傷サンプルを用いたタンパク質発現の解析においても、同様の結果が得られた(図2)。これらの結果から、M1マクロファージは創傷治癒早期に、M2マクロファージは創傷治癒後期に活発となることにより、創傷治癒過程が順調に進行することが判明した。
3.今後の展開
創傷に対する治療の目的は早くきれいに治すことである。すなわち、早期に皮膚の癒合あるいは上皮化が得られ、できる限り本来の形態を保持し、最小限の瘢痕で治癒させることである。マクロファージバランスを制御することができれば、治癒しやすい創傷を準備し、創傷治癒に最適の環境を与えることが可能となる。さらには、各種皮膚疾患の病態形成における皮膚マクロファージバランスの役割も今後の研究により明らかになることが大いに期待される。
4.用語説明
- マクロファージ(Macrophage, MΦ):元は単球と呼ばれる白血球の一種。死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす。特に、外傷や炎症の際に活発である。また、免疫機能の中心的役割を担っている。免疫とは、からだに侵入する細菌やウイルスなどの病原体から、からだを防御する仕組みのことである。
- M1/M2マクロファージ:一般的に、M1マクロファージは炎症性単球が炎症性サイトカインであるTNF-αやIFN-γなどを受けて分化し、病原体や寄生虫感染防御に働く一方、M2マクロファージは組織常在性単球がIL-4やIL-13などTh2型サイトカインを受けて分化し、組織修復などにかかわるといわれている。
- サイトカイン:細胞から分泌される低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。生理活性タンパク質とも呼ばれ、細胞間相互作用に関与し周囲の細胞に影響を与える。放出する細胞によって作用は変わるが、詳細な働きは解明途中である。サイトカインは健康?病気いずれの状態においても重要であり、感染への宿主応答、免疫応答、炎症、外傷、敗血症、がん、生殖における重要性が特記される。
5.発表雑誌
Yumi Kuninaka, Yuko Ishida, Akiko Ishigami, Mizuho Nosaka, Jumpei Matsuki, Haruki Yasuda, Ayumi Kofuna, Akihiko Kimura, Fukumi Furukawa, Toshikazu Kondo.
“Macrophage polarity and wound age determination”
Scientific Reports. 2022 Nov 25;12(1):20327.
doi: 10.1038/s41598-022-24577-9.
https://www.nature.com/articles/s41598-022-24577-96.
6.本論文著者
和歌山県立医科大学 医学部 法医学講座
國中由美特別研究員、石田裕子准教授、石上安希子講師、野坂みずほ講師、松木順平、安田啓喜、小鮒亜裕美、木村章彦博士研究員、古川福実博士研究員、近藤稔和教授
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