KRAS遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんに対する有望な臨床試験結果を発表
発表日時 |
365体育app5年6月15日(木)16:00~16:40 |
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場所 |
生涯研修センター研修室 |
発表者 |
本学医学部 内科学第3講座 教授 山本信之、准教授 赤松弘朗、 バイオメディカルサイエンスセンター 病院教授 洪泰浩 |
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ポイント
- これまで高い奏効率をもつ治療法のなかった、KRAS遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんに対して、当科が中心となり全国の研究者の協力を得て医師主導治験を行いました。
- KRAS G12C阻害剤(ソトラシブ)とカルボプラチン?ペメトレキセドの併用治療を受けた患者の約90%で腫瘍が半分程度に縮小するという非常に良好な結果が認められました。
- 有害事象については想定された範囲内での血液毒性や消化器毒性に留まり、概ね認容可能でした。
- 探索的な研究として血液中の腫瘍由来DNAを用いた次世代シーケンサーによる解析を行い、治療開始後のKRAS遺伝子変異の変化が治療効果に相関している可能性を示しました。
- 結果は、がん領域における最大の国際学会である米国臨床腫瘍学会(通称:ASCO*1)において、非小細胞肺がん領域で特に注目すべき演題としてoral presentationに選ばれ、報告されました。
1.発表概要
和歌山県立医科大学 内科学第3講座(呼吸器内科?腫瘍内科) 赤松弘朗准教授?同 山本信之教授らの研究グループと同 バイオメディカルサイエンスセンター 洪泰浩病院教授の研究グループは、KRAS遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんに対してKRAS G12C阻害剤(ソトラシブ)とカルボプラチン?ペメトレキセドの併用治療を行う第II相試験を行いました。本試験は西日本がん研究機構(通称:WJOG*2)に属する合計29施設の研究者の協力を得て行った多施設共同の医師主導治験です。
KRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がんに対する標準的な初回治療は遺伝子変異を持っていない患者さんと同じ薬物を用いますが、その奏効率は30-50%前後と十分に満足できるものではありません。
そこで今回、初回治療の方を対象に、従来からの標準治療である化学療法にソトラシブというKRAS G12C阻害剤を併用する試験を計画しました。日本中から30名の患者さんが参加し、ソトラシブとカルボプラチン?ペメトレキセドの併用治療を受けた結果、89%の患者さんで腫瘍が半分程度に縮小するという非常に良好な結果が得られました。有害事象については想定された範囲内での血液毒性や消化器毒性に留まり、概ね認容可能でした。
また探索的な研究として、参加した患者さんの血液を治療前後で採取し、血液中の腫瘍由来DNAを次世代シーケンサーにより解析しました。結果、治療開始後のKRAS遺伝子変異の変化がソトラシブ+化学療法の治療効果に相関している可能性を見出しました。
これらの結果は、がん領域における最大の国際学会であるASCOにおいて、非小細胞肺がん領域で特に注目すべき演題としてoral presentationに選ばれ、報告されました。
2.発表内容
[研究の背景]
進行の非小細胞肺がんに対する標準治療は薬物療法ですが、がんに生じた遺伝子変異などのバイオマーカー結果を元にした個別化医療も進んでいます。EGFR?ALKなどいくつかの遺伝子変異に対してはそれらを標的とした分子標的薬によって高い効果(60-70%の奏効率)が得られます。
KRAS遺伝子変異のうちG12C変異は非小細胞肺がんにおいて最も多くみられる変異ですが、実数としては非小細胞肺がん全体の約5%と比較的まれな集団です。この変異を有する患者さんに対してはソトラシブという分子標的薬が承認されてはいるものの、単独での奏効率は28%と十分ではありませんでした。一方、EGFR遺伝子変異陽性例に対しては分子標的薬と化学療法の併用によって相乗的な有効性が得られることが判明しています。
以上のような背景を元に、本研究ではKRAS G12C遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんの方に対してソトラシブと化学療法(カルボプラチン?ペメトレキセド)を初回治療から用い、その有効性?安全性を確認することを目的としました。
[研究内容]
2021年から2022年にかけ、WJOGに所属する全国29施設から協力をいただき、30例のKRAS G12C遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん患者さんが本試験に参加されました。うち27例について、第3者中央判定による客観的な有効性評価を行いました。
その結果、本試験の主要評価項目である奏効率(患者さんの腫瘍体積が50%以上減少した患者さんの割合)は88.9%と非常に良好でした。添付資料図1は各患者さんにおける腫瘍の長径が最大でどの程度変化したかを示しており、青の棒グラフの患者さんでは良好な縮小が得られていることが分かります。なお、この結果は、KRAS G12C陽性の非小細胞肺がんにおいてKRAS G12C阻害薬と化学療法併用療法の有効性?安全性を評価する初めての研究となります。
また、探索的な解析として、患者さんの末梢血を治療前後で採取し、次世代シーケンサーという機械を用いて血中のがん由来DNAに含まれる数百の遺伝子変異を網羅的に解析しました。血液から得られるがん由来の遺伝子変異は腫瘍組織の状況を反映していることが知られています。本研究では治療開始時点で約70%の患者においてKRAS G12C変異が陽性でしたが、治療開始3週後には、約半数の患者でKRAS G12C変異が血中からは消失していました。このような血中のKRAS G12C変異が消失した患者さんでは、そうでない患者さんに比べて奏効率が低いことが示唆されました。このような血液を用いた治療効果の推定は患者さんの負担が少ない方法として今後も臨床への導入に向けた検討を続けていく必要があります。
[社会的意義?今後の予定]
本研究の結果は、がん領域における最大の国際学会であるASCOにおいて、非小細胞肺がん領域で特に注目すべき演題としてoral presentationに選ばれ、報告されました。本治験の結果をもとに、今後検証的な大規模臨床試験が検討される可能性があります。
本研究は、アムジェン株式会社からの資金援助を受けました。
3.発表学会
学会名:American Society of Clinical Oncology, Annual congress 2023
(シカゴ、2023年6月6日)
演題タイトル:
The primary endpoint analysis of SCARLET study: A single-arm, phase II study of sotorasib plus carboplatin-pemetrexed in advanced non-squamous, non-small cell lung cancer patients with KRAS G12C mutation: WJOG14821L
著者: Shinya Sakata, Hiroaki Akamatsu (presenter), Koichi Azuma, Takehiro Uemura, Yuko Tsuchiya-Kawano, Hiroshige Yoshioka6, Mitsuo Osuga, Yasuhiro Koh, Satoshi Morita, Nobuyuki Yamamoto
学会抄録:J Clin Oncol 41, 2023 (suppl 16; abstr 9006)
4.用語解説
(注1)米国臨床腫瘍学会(ASCO)
年に1回、全ての癌に対する最新の研究が公表される世界最大のがんに関する学会です。今年は約5700の演題が採択されました。
(注2)西日本がん研究機構(通称:WJOG)
2000年に設立されたNPO法人で、主に肺がん?消化器がん?乳がんを対象に、がんの新たな標準的治療の確立とがん予防に取り組む専門家医師を中心とした団体です。これまで多くの一流誌にその研究成果を発表してきました。
5.添付資料
図1. 各患者さんにおける腫瘍長径の最大変化率(%)
青は良好な腫瘍縮小が得られた、橙は総合的には横ばい、赤は縮小が不十分あるいは新規の増悪が見られた患者さんとなります。
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