当教室では、内分泌代謝分野の研究、特に肥満や代謝異常の研究を行っています。代謝疾患の治療を目指して、特にホルモンや栄養素を介したシグナルに注目しながら、種々の細胞系や、遺伝子改変動物などの動物モデル、また医学部との共同研究により臨床サンプルも用いて研究を進めています。
当研究室の研究内容
グレリンに関する研究
グレリンは主に胃から産生されるペプチドホルモンで食欲刺激や成長ホルモン分泌など多彩な生理作用を有しています。当研究室では、グレリンの生合成や分泌調節に関わる分子機構の研究、また、様々な動物モデルを駆使することでグレリンの病態生理学的意義についての研究を進めています。カヘキシアやソマトポーズ、サルコペニアなどの疾患の治療を目指したグレリン分泌刺激薬、肥満や糖尿病の治療を目指したグレリン分泌抑制薬の開発も目指して、新たなスクリーニング系の樹立も行います。
グレリン分泌調節の研究
我々はこれまでの研究において、世界で初めてグレリン分泌細胞株(MGN3-1細胞)の樹立に成功しました。MGN3-1細胞は、マウスのグレリン産生腫瘍から樹立され、生理的なプロセッシングまたグレリンの活性に必須のアシル化修飾を受けたグレリンを高濃度に産生することが判明しています。また、自律神経やソマトスタチン、インスリンなどをはじめとして、少なくとも一部の生理的な分泌調節機構を維持していることがわかっています。これまでに、RNseqによって、MGN3-1細胞に発現するGPCRを網羅的に把握し、リガンド添加を行うことで、ノルアドレナリンやアセチルコリンなどの自律神経系、ソマトスタチンやオキシトシンなどのペプチドホルモン、また、乳酸や長鎖脂肪酸、トリプトファンといった栄養素、PGE2やIL-1β(Koyama, Iwakura et al. Endocrinology 2016, Bando, Iwakura et al. Mol Cell Endo 2017)などのサイトカイン等がグレリンの分泌調節に関わることを明らかにしてきました。最近では新たな分泌評価系を樹立しつつあり、細胞から培地中へのグレリン分泌をごく短時間で評価可能となりつつあります。GPCRやサイトカインシグナル以外のグレリン調節機構、またin vivoにおける個々の調節因子の生理的役割についても検討を進めていく予定です。
デスアシルグレリン研究
グレリンは3番目のセリン残基がオクタン酸によって脂肪酸修飾を受けるという極めて特殊な構造を持ったペプチドホルモンであり、この脂肪酸修飾はグレリン受容体GHS-Rへの結合に必須であることが知られています。しかし、我々を含めた多くのグループからの報告で、脂肪酸修飾のないデスアシルグレリンにも、糖代謝改善作用(Iwakura et al. J Biol Chem.2005)、摂食調節作用、骨格筋増強作用、細胞増殖促進作用など多様な生理活性が報告されています。デスアシルグレリンの作用に関して、その受容体、シグナル機構は全く不明であり、その解明を目指して研究を行います。
グレリンアシル化基質供給機構の研究
我々はこれまでの研究において、グレリン細胞では膵β細胞など他の内分泌細胞とは異なり、長鎖脂肪酸取込み能が高く、中鎖以降のβ酸化が緩徐に進むことで、グレリンの脂肪酸修飾に必要なオクタン酸の供給が行われるという仮説の元研究を進めてきました(Bando et al. FEBS Lett. 2016)。
アシル化供給機構やグレリンアシル化酵素(GOAT)の調節がどのような機序で行わるかを明らかにすることで、グレリン活性調節薬の開発につなげることを目指します。
グレリンの生理役割の解明
グレリンは外部からの投与では多くの生理作用を示しますが、グレリンノックアウトマウスでは大きな表現形は認められず。グレリンの生理的な存在意義に関しては不明な点も多いと言えます。遺伝子改変動物の利用によって、グレリンの生理的な役割の解明を目指します。